北アルプス高瀬川最深部へ(3) 湯俣温泉 晴嵐荘 2023秋
湯俣温泉は標高1534mにある秘湯です。温泉の存在は古くから知られていたようですが、入浴に利用されるようになったのは昭和の初期のようです。なかなか温泉として定着しなかった理由として、源泉は河原にあること、源泉が小さくお湯の湧出量が少ない、安定しない? 洪水などにより川の流路がすぐに変わること、などがあったものと推測されます。
晴嵐荘(せいらんそう)の小屋主 竹村正之氏の講演会(2023年4月)のお話から、小屋の歴史を紐解きます。正之氏の祖父 竹村多門治?(たもんじ)氏が炭焼きの仕事をされていた関係で、昭和の初め(1933年/昭和8年ごろ?)に、現在の晴嵐荘の対岸(から谷沢出合)に山小屋「仙人閣」を建てたそうです。また、千丈沢と天上沢の出合(千天出合)から槍ヶ岳の北鎌尾根を直登するたもんじ新道(廃道)を開かれたそうです。「仙人閣」は1953年に雪崩で倒壊、その後、父 たいじ氏が1958年(昭和33年)に現在の場所に「晴嵐荘」を建てました。山小屋の名前は公募で決められたとのことです。ちなみに、旧「伊藤新道」が開通したのは1956年です。
昭和30年代~40年台は日本に一大登山ブームが訪れ、大町は「岳都」と呼ばれ、晴嵐荘には100~120人もの登山客が宿泊したこともあったそうです(現在は新型コロナ感染症もあり定員30名)。登山ブームに合わせてダークダックスの雪山讃歌も流行っていました(私も覚えています)。その後、東京電力による大規模揚水式発電所(新高瀬川発電所・高瀬ダム・七倉ダム)の建設工事(1969年/昭和44年~1979年/昭和54年)、さらには「昭和44年8月豪雨」の大水害に対して建設省の洪水調節機能として大町ダムの建設工事(1972年/昭和47年~1985年/昭和60年)が続き、登山者は工事現場の中を歩くような状態となり、裏銀座への登山者も含めて訪れる人は激減してしまいました。
ところで、出発一週間前に電話で現地の状況を確認をしたのですが、その際に、高瀬川をジップラインと吊り橋で渡るのですが、ジップラインは・・・・・と説明を受けました。ジップライン(ZIP LINE)とは、山や森など自然のなかに架けられたワイヤーロープにベルトとハーネスを装着してぶら下がり、プーリーと呼ばれる滑車を使って滑り降りるアウトドアアクティビティで、時々テレビなどで見かけますが、私自身は使ったことはありませんでした。晴嵐荘のウェブサイトにある美しい画像をいくら眺めても小さな吊り橋だけで、ジップラインはいったいどこにあるのだろうかと思いながら出かけました。
真新しい湯俣山荘を通り過ぎると、晴嵐荘の正面にこのジップラインと吊り橋がありました! 使用方法の説明書きがありましたが、お恥ずかしいながら対応できず、そのうちに後続の登山者が到着し、その方達に教えてもらったり、アシストしていただいたりでようやく私自身とザックを渡すことができました。初めてでしたので焦りもあり、大汗をかいてしまいました。初体験でもう草臥れました(苦笑)。でも一度体験してしまえば、もう大丈夫です。
こちらのジップラインは人用と荷物用の2ラインあります。いずれも椅子(ブランコ)があります。
人用には安全ベルトがありますが、腰の周りに回す程度で、いわゆる安全帯のように落下の際に体を保持してくれるようなベルトではありません。実際に乗ってみると意外と安定しており、風もあまり吹いていなかったので、恐怖感は感じませんでした。途中までは自重で移動していきますが、その後は自分でケーブルを手繰り寄せながら、対岸まで移動していくことになります。ナップザック程度の小さな荷物なら胸元に回して乗れますが、ザックを背中に背負って乗ることはバランスが崩れて危ないようです。
荷物用の椅子(ブランコ)には荷物固定用のベルトが2本ついています。単純にベルトを締めれば良いのですが、万が一はずれて川の中に落ちると困るので、ザックのショルダーベルトにも固定用ベルトを通したりして、確実に固定しました。
全体の手順としては、椅子(ブランコ)に荷物の固定を行う、椅子に自分が乗って対岸に渡る、対岸から荷物を手繰り寄せる、となります。
ところで現在の写真とウェブサイトやポスターの写真を比べると明らかに川の流路が変わっています。多分洪水で以前の吊り橋が落ちて今のジップラインに、晴嵐荘側にも新たな流路が出来てしまい、そこには新たな吊り橋ができたようです。先ほどのご講演では、洪水は平成30年6月~7月の出来事だったそうです。
この水害について調べてみると、該当するのは平成30年7月豪雨(別名 西日本豪雨)です。6月28日から7月8日にかけて、西日本を中心に全国的に広い範囲で発生した、台風7号および梅雨前線の影響による記録的な集中豪雨です。西日本を中心に甚大な被害が発生し、長崎大水害(昭和57年7月豪雨)以来の最悪の被害、「平成最悪の水害」と報道されました。長野県王滝村では約1000ミリの雨が降ったようです。翌年平成31年に仮復旧、2021年(令和3年)に新「伊藤新道」の吊り橋工事に合わせて、現在の吊り橋をかけて、ようやく4年ぶりに復旧できたとのことでした。いずれにしろ、高瀬川流域では集中豪雨のたびに洪水や土砂災害が発生しているようで、現在でもあちらこちらで河川改修工事(護岸工事)をおこなっている感じでした。
今回の宿泊は山荘の営業終了直前の滞在でした。テント泊の登山者もいましたが、小屋泊まりのお客さんは少なく、のんびりとした雰囲気でした。
温泉ですが、以前は山荘の少し下流に野湯(のゆ)が2ヶ所あったようですが(昔の写真がありました)洪水で流されたりして、現在は山荘内の内湯だけです。泉質は単純硫化水素泉、温度は約42度。微かに硫黄の匂いがしますが、適温で長風呂ができる状態でした。浴槽は3人入ればいっぱいで、1~2人が良いです。今回は午後、夜、早朝と3回、一人でのんびりと楽しめました。夜はランプのみの灯りでほぼ真っ暗、ちょっと幻想的です。タオルは持参です。
夕食は「噴湯丘にちなんだ晴嵐荘特製スパイスカレー」です。噴湯丘を模した五穀米?のご飯、少々辛いスパイスの良く効いたカレールー、揚げたての鶏肉が入っています。もう本格的なカレーで大変美味しいです。欲を言えば、ご飯の量に対してルーがもう少し欲しかったです。
朝食は、国産・手作りが強調されています。温泉卵も。ご飯は大町コシヒカリだそうですが、非常に美味しく炊き上がっているのが一番印象的でした。
小屋は谷筋にあるためか、この季節16時ごろから食堂兼談話室も暖房がないと、かなり寒い感じでした。部屋も含めて、防寒着は必須かと思いました。また、一週間前の事前確認では、小屋締めが間近なので宿泊日に昼食を提供できるかどうか分からないので、昼食は持参したほうが無難とのことでした。
山荘では携帯電話はすべて圏外、公衆電話(衛星電話)はありません。業務用は無線のようです。ただし、ドコモに関しては、向かいの湯俣山荘からわずかに下った登山道で、はるか稜線にある燕山荘のドコモ基地局からの電波が弱いながらも入っており、メールは問題なく可能でした。
この付近には電信柱が設置されており東京電力から給電されているようでした。山荘の照明も24時間使えているような感じでした。
この湯俣温泉あるいは晴嵐荘、場所的にはたいへんな秘境だと思いますが、高瀬川流域の治水・砂防などがあるのでしょう、河川改修工事(護岸工事)、水門、小規模水力発電所、ダムなど、小さいながらも人工構造物があるので、秘境感はやや削がれるような印象でした。でもなかなか興味深いエリアでした。
撮影機材 Panasonic LUMIX S1 LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. and iPhone SE
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