国立新美術館「トルコ至宝展」2019 〜 イスタンブール 2007
今回の「トルコ至宝展」で気になったのは、展示の背景となる壁紙(正確にはパネル)でした。トプカプ宮殿の壁には、様々なイスラム様式のデザインやチューリップをかたどったデザインの装飾タイルで埋め尽くされています。このイメージを展示会でも再現したのだと思います。今はコンピュータを利用すれば、このような幾何学的な模様の配列は容易に設計・印刷できると思いますが、今回の各種デザインの壁紙にはけっこう費用をかけているのではないかと思いました。
イスタンブールに行ったのはもう12年も前(2007年)になってしまったので、今はかなり変わっているのかもしれませんが、当時の感想です。
スルタンの「ハレム」は、アラビア語のハラム(聖域)やハリム(禁じられた)を語源としているそうで、トプカプ宮殿の最大の見所とされています。しかし正直なところ、印象が今ひとつでした。理由として、
1)一定の人数ごとにグループとなり、道案内のガイドが前後につきます。見学者の人数が非常に多く、狭い通路を歩くので、最後尾のガイドからは、早く進んで下さいと、催促の声が飛びます。せっかく日本語の音声ガイドを借りたのですが、落ち着いて聞いたり見ている時間がありません。
2)各部屋はタイルを含めてたしかに素晴らしいのですが、調度品が無いので往時の雰囲気がつかめません。スルタンの宮殿は、オスマン帝国の近代化に伴い19世紀中頃にドルマバフチェ宮殿に移ってしまいますので、やむおうえないのでしょう。
3)結果として、どの部屋も同じように見えてしまい、直に飽きてしまいます。テレビや映画では妖艶な雰囲気となるハレムのお風呂も、ここで実物を見ると、何、これ? と言う感じでした。リピーターでも無い限り、見学のポイントが掴み難いと思いました。
「トルコ至宝展」にも出てくるようなスルタンのジュエリーはトプカプ宮殿の中の宝物殿の中にまとめて展示されていました。特に印象に残っているのは巨大な宝石という意味で(笑)、「世界的に有名な短剣<トプカプ>」 大きなエメラルドが3つ! そしてダイヤモンドでした(笑)。その他、とにかくたくさんありました。キリスト教系とは異なる美意識で作られたジュエリーですね。
「トルコ至宝展」2019
スルタンが身につける「カフタン」、長い羽織のような外衣です。素材としては、金糸銀糸を織り込んだ羊毛の布、上質な絹を用いたサテン、錦織のベルベットなどの高級な布が用いられました。冬用には厚い布地が用いられ、白貂・黒貂、狐などの毛皮が裏打ちされていたそうです。このような独特なトルコ織物のコレクションも膨大だそうですが、当時はあまり興味が無かったためか、展示室をパスしたのか、ほとんど記憶に残っていません(苦笑)。
一方、ドルマバフチェ宮殿はイスラムと言うよりは、もう近代西欧の宮殿です。こちらには、チューリップのモチーフによる調度品(特に、照明器具などのガラス製品)がたくさん展示されていました。 トルコのアナトリア半島はチューリップの原産地でした。トルコ語ではチューリップを「ラーレ Lâle」と呼びます。スルタンの保護のもと、華やかな宮廷文化が生まれた18世紀のオスマントルコではこの花が大流行し、多くの宮廷用具にチューリップのモチーフが用いられました。社会的に「チューリップ時代」とも呼ばれる一時期もありました。現在でもチューリップはトルコの国花であり、もっとも人気の高いモチーフだそうです。
ところで、オスマン帝国(オスマントルコ)とトルコ共和国は同じような感じを持ちますが、
「興亡の世界史10 オスマン帝国500年の平和、講談社、林 佳世子、2008.10」
を読むとずいぶん違うものであることがわかります。
現在のトルコ共和国はイスタンブールを中心に東に広がるアナトリア半島の国というイメージですが、オスマン帝国の基盤はイスタンブールを中心に西に広がるバルカン半島の国といった方が良いようです。帝国の元々の支配層は、オスマン家を中心にしたアナトリア出身のトルコ系軍人(イスラム教徒)+バルカン半島の旧支配層からの転身者(キリスト教徒、中にはイスラク教徒へ改宗)だったそうです。オスマン家はアナトリア出身にもかかわらず、広大なアナトリアの安定した支配には長い間常に苦慮していました。
帝国の支配層がほぼイスラム教徒で独占されるようになるのは、現在のシリアやエジプト征服を通してメディナ・メッカ(現サウジアラビア)を間接支配することになってからです。メディナ・メッカを擁するオスマン帝国はイスラム世界の守護者となり、バルカンの国であるオスマン帝国がイスラム化を深めていくようになったそうです。
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